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2012
08.03

土と生きるひと  その1  斎藤昌

過日、新聞の朝刊に、懐かしい人の名前を見つけた。
「斎藤昌」(1928年~)
北海道旭川の神居町郊外の里山で
普通とはちょっと違うやり方で酪農を営んでいる。

氏は昭和22年春、北海道開拓団の一員として開拓団に加ったが、最年少(19歳)だった氏にあてがわれたのは、農業には一番条件の悪い、笹だらけ、岩だらけの荒れ果てた石山だった。

その後寸暇を惜しんで開墾を続けるが何もかもが上手く行かず、食うや食わずの生活が続き、いよいよ絶望の淵に立たされたある日、生い茂る笹山に登って周囲を見渡してみると、そこには野鳥や昆虫が楽しそうに飛び回り、木々や草は元気に勢いよく天に向かって伸びているではないか…。

『鳥や昆虫は、こんなに生き生きと暮らしているのに、人間は肉体を酷使して、その上金まで使って苦労に苦労を重ねても、何の成果にもつながらない。この違いはどういうことなのだろう。…よし、虫と同じ姿勢で生きていこう。自然に立ち向かうのではなく、自然に溶け込んで生きていこう!』

常識からの決別を果たした氏は、その日を境に牧場作りを本来の主人公である「牛」任せで行ってきた。
やがて数年後、荒れ果てた山は、ひ爪に牧草や樹木の種を挟み、自由に動き回る牛たちによって豊かな緑に覆われた、理想的な牧場へと変身してゆく。

そして草を食べた牛から乳をもらい、牛の糞尿で土を肥やし、肥えた土で生命力あふれる草を育てる酪農は、エネルギーを無駄なく循環させる、人間にとっても恵豊かな場所と変身を遂げる。

しかし当時、いや、近年に至るまで近代化・合理化路線にひた走る日本の酪農の中で、晶のやり方は冷笑され、誰からも相手にされなかった。

そんな氏に、僕が出会うことが出来たのが今から20年ほど前。
当時、活動していた「ウイラプル」というバンドのレコーディングのため、牧場の一角にあるログハウスをお借りする事になったのがきっかけだった。

牧場に着くなりボロボロのジープに乗せられ…というか積み込まれ、
道なき道をジェットコースターのように揺すぶられながら尾根筋の草原に連れて行かれた。
そこには30頭あまりの牛たちが何とも平和そうに
そしてとても健康そうに草を食んでいた。

すると氏は「オス牛とは絶対目を合わせないように」と言った。
ん ? 30m程先の群れをよく見ると群れの真ん中あたりに確かに一頭、オスが混ざっている。
(うひょー、ハーレムじゃんか、羨ましいんでないの…)
そんな僕の下世話な思考を遮るように斉藤さんが更に続ける
「目を合わせると、突進してくるからな。逃げても間に合わんかもしれんよ」

あ、確かに、さっきからこっちを何げに見ているけど
鼻息がだんだん荒くなってくる。唸り声さえ聞こえるような気がする。
いや、確かに「フンガーっ」と聞こえた。

と、思った瞬間「キッ」とこちらを睨んだ。
鼻息が1mぐらい噴出したように感じた。
その瞬間、僕らは、そのオス牛の野生の威厳に凍りついた。
明らかに射程距離に入ってしまったようだ。

「おっ、ヤバイ、ヤバイ」と斉藤さんは笑いながら僕らを急かすようにジープに乗せた。
そして急斜面を転がり落ちるように下るジープの荷台で
振り落とされまいとする僕らが
斉藤さんのワイルドな運転技術に更に凍りついていたのは言うまでもない。

そんなこんなで僕らは全員、点目となりながら
ホウホウの体で人の匂いのする牛舎へと戻り
「ふーっ」と大きなため息をつきつつ一休み。
それから斉藤さんの案内でログハウスへと向かった。

その途中の牧場の風景を見てまた僕は凍りついた。
そのあまりにも美しい風景に再び凍りついた。

カンペキなデザインである。
草一つ、樹一つ、石ひとつに至るまで何一つ無駄がなく、
何一必要のないものもない。
人間には絶対に作ることができない
絶妙なバランスによる自然の創り上げた絶景がそこにあった。

斎藤牧場-4


斎藤牧場-2


斎藤牧場-3


斎藤牧場-1

あれから、また時が立ち、時代の変化なのだろうか
様々な思いを、そして癒しを求め、この斎藤牧場を訪れる人たちが多くなった。
そして気がつけば農水省のホームページにまで紹介されるまでに至っている。
農水省HP
尚、平成23年4月には「吉川英治文化賞」を受賞しています。

「山を拓こうとすれば、みんな(他の人)は石を取って傾斜地をならしてきれいにしようとするけど、そんなことしたら土が流れ、10年もすれば作物ができなくなるの。人間の知恵で格好よくしようとしたり、効率よくしようとしてもマイナス要素にしかならないんですよ。そんなことをしないで牛に任せていると、こういう草地をつくってしまう。余計なことはするなってことなんですよ」

「今の人間は勘違いをしているんだ。カネかけて技術を使って、人よりも先取りして自然を克服すれば幸せになると思っている。でも、人間の理屈を押し通したらしっぺ返しがくるんだ。アメリカで資本主義が方法をなくしちまったのも、その結果なんだ。自然の法則に溶け込んだら、生きることなんて難しくないんだよ」
 
「ここには何もない、ここでは暮らしていけないと思っていた自分がつくづく情けなくなりました。ここには実は必要なものが全部そろっていた。なかったのは自分の能力だけ。」

笑いながら語る長老、斎藤昌氏の この珠玉の言葉に
我々はもう一度、しっかりと耳を傾けなくてはいけない。
そして帰るべきところを 学ばなくてはいけない。


以上参考:■斎藤牧場のHP

※本も3冊出版されています。僕が今回購入したのはこの本
斎藤昌氏

しかし、いい顔してるなあ…。

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